「今夏、イタリアは世界中の観光客を歓迎します」

 1週間程前から24時間の感染者数が1万人を下回るようになり、陽性率も下がっていることからイタリア社会に明るさが戻ってきました。まもなく40歳代にもワクチン接種開始予定、とはいえ“90歳を過ぎてもまだ未接種”とか“集団接種会場に高齢者が集まって危険”など行政の不備を指摘する声や不満が少なからずあるのも事実です。政府としては遅くとも夏終わりまでに集団免疫を獲得する予定ですが全体として大幅に遅れているのは確かなようですね。またアストラゼネカのワクチンに関してEUは契約更新しないと複数のメディアが伝えました。
 さて、イタリアは本気で観光客受け入れを再開するのか?と尋ねられることが最近多くなりました。ドラギ首相がG7の記者会見で「夏にはイタリアは世界中からの観光客を歓迎する」と発表したことを受けての質問です。24時間の感染者が日本よりまだ多くて、死者も日本より段違いに多いのに観光客を受け入れるなんて!ハァ?マジですか?となりますね、多くの日本人にとっては。イタリアは夏には全体で集団免疫を獲得する見込みなので観光客を受け入れてもOK、という算段なのです。実はギリシアではカステロリゾ島の住人500人に3月から先にワクチン(ファイザー)を接種して“新型コロナ・フリー”島として大々的に観光客受け入れを進めています。EUが作る“安全に旅行できる場所(グリーン・リスト)”のリストにギリシアも入り、行楽シーズンに間に合わせて観光客を呼び込みたいのです。今、EU全体で夏の行楽シーズンに備えてワクチン以外に様々な方法で旅行客に安全に休暇を楽しんでもらうために国ごとに行政システムを変えるなど観光客受け入れ準備を着々と進めています。
 もっとも“それでは安心”とするには少し早いと個人的には思います。新型コロナ前、日本でも報道されたように欧州には非常に多くの難民が押し寄せていました。イタリアでは第1次コンテ政権時代は北部同盟のサルヴィーニ党首が副首相だったことで難民受け入れ拒否&強制送還政策が進められましたが、その後第2次コンテ政権になると北部同盟が政権から離れたので国の難民拒否方針は撤回されました。その結果、例えばフランスとの国境の町にある難民キャンプがさらに大きくなったものの、今では国が運営から事実上撤退してしまったので複数の支援者と地元民の善意でなんとか続いている状況です。
最近こうした支援団体の一つが訴えているのが、難民へのワクチンがないことです。今のところワクチン接種対象はイタリア人と正規滞在の外国人だけ、不法滞在者は対象ではありません。何れは不法滞在者にもワクチン接種できるようになると思いますが現況を鑑みると当分無理でしょう。しかもmRNAワクチンはどう考えても高価、加えて新型コロナによる深刻な不況、新型コロナを克服したポストコロナ時代になってもバラ色の楽園到来とはならないのは火を見るより明らかですし…こうした事を考慮すれば難民がワクチン未接種の状態で放置され続けることは十分想定できるわけです。しかも海を渡ってくる難民は後を絶ちませんしね、数日前にはシチリアのランペドゥーサ島に2,000人の難民が来ました。1日の到着数としては、これはかなり多い数字ですが百人単位はざらです。新型コロナが猛威を振るっていようと難民から見れば欧州は希望の地なのでしょう。
世界中から観光客を歓迎すると言っても欧州各国政府はこの辺りの状況を明らかにしていないので、用心深い日本人としては暫く欧州の旅行は控えた方が良いようです。もっともワクチン未接種の日本人はEU側からから見ればpersona non grata(ラテン語の本来の意味は「好ましからざる人物」)でお断りでしょうけれど…

ではまた                             (唐木麻美)